野外採集 -懐かしき思い出-(5回生:臼杵浩志)( 2016.11.30 )

身の回りの雑草や昆虫には殆ど名前があり、その特徴を把握して図鑑で絵合わせすれば、大抵はその名 前が判る。その名前を覚えるだけでも面白いのだが、綺麗なものや不思議なもの、中には未知なものもあ って、仮令、趣味であっても調査・研究の対象にはこと欠かず、興味深いものである。就中、登山やハイキ ングといったスポーツ・行楽的側面もある「野外採集」は非常に楽しいものである。和気先生には、「野外採集」を通じて「生物研究」について、授業とは違った様々なことを実地勉強させていただいた。

思い出すのは、先ずは大川山(香川:1042m)。「アサギマダラ」(写真)や「クロコ ノマ」の山である。自転車に乗って美合村まで行き、そこから2時間かけての山頂 神社までの登り/降りに採集をする。ここでは、初めて「アサギマダラ」に出会い、 緊張のあまりに取り逃がしてしまった悔しい思い出がある。宿泊をして、夜間に灯 火採集や腐肉採集をした記憶もある。山頂神社脇には石梨の木があり、小さな梨 がなって、先生からは梨の原種、食べられない、と教わった。また、あるときには、登山道脇にいた蛇をマムシだと知らずに補虫網で押さえて移植ゴテで殺したら、先生が跳んできて、咬まれたものはいないか、と大目玉を食らった。梶が森(高知:1400m)も印象深い山である。土讃線の豊永駅で下車、登山を始めるとすぐソバ畑が広がるが、そこで、初めて「ウスバシロチョウ」に出会った。飛んでいるときはモンシロチョウかと思っていたが、捕らえてみれば、これが、図鑑でしかみたことがない「ウスバシロチョウ」。特異な形をした綺麗な蝶で、また「宝物」が増えたと大感激した。また、この山には、もう少し登ったところに、白い花が咲く大きなウツギの木が1本あり、その木にはミドリシジミやヒョウモンが沢山飛んでいた。青空を背景にして蝶が飛び回るこの木の夢を何度みたことか。その他にもイシガキチョウを採集した「こんぴらさん/屏風岩」、オオムラサキを採った「東部山」等々、思い出深き山は数多い。しかし、当時、日本(沖縄返還前)に棲息する蝶は180-190種、うち、その半分も私は採集できていない。

一方、和気先生からは新種や変種発見の話をよく聞かされた。四国新聞の取材現場(百合の花の変種)に同席したこともある。蛾の世界には未知のものが多いらしく、冬期の法勲寺、土器川の林で採集した蛾にかなりの新種・変種がいたことや、珍しい蜂を見つけて専門家に鑑定を依頼したら、新種か、若しくは我が国では記録のない「アパンテレス・タプロバナ・カメロン」だと判ったという話も聞かされた。蜂の話は学名の面白さもあって、当時仲良くしていた従兄弟にも吹聴、すごい!と、一緒になって、「アパンテレス・タプロバナ・カメロン」と大声でお念仏のように唱えていた。最近、インターネットで曖昧検索をしてみたらApanteles taprobanae Cameronという「コマ ユバチ」がヒットした。先生の捕まえたコマユバチが新種であったか、A.taproban aeであったか、その後談は聞いていない(写真は、近縁種アオムシコマユバチ)。卒業後、生物部員は、それぞれ思い思いの道に進んでいった。和気先生による影響は測り知れないもの があるが、先生とは時間の経過とともに徐々に疎遠になってしまった。ある年の年賀状に、「私の後を継い でくれる人は、誰もいなかった」と添え書きがあったが、どのような意味であったのか?今でも、時に、気になることがある。

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